言葉にしてみる日記

日頃考えていることや感じたことを言語化するために書いているブログです。

科研費ハンドブック(研究者用)を読む

 5月29日から、独立行政法人日本学術振興会の「科学研究費助成事業」のページで「科研費ハンドブック(研究者用)-2015年度版(平成27年5月版)-」がダウンロードできるようになりました。

 ここ数年で、毎年ルールの一部が変わっている印象のある科研費ですので、研究者から質問を受ける前にさらっと中身を見ておこうと思います。

 ぱっと目次を見てわかるのが、項目の順番に変動があったことです。

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(※科研費ハンドブックの目次を加工) 

 2014年度版では、ルール、応募、採択、評価、成果報告という順序だったものが、2015年度版では、【はじめに】、【科研費で研究を行うとき】、【応募するとき】の3つのグループに大きく分類され、その中でさらに項目が順序づけられるようになりました。

 次に気づいた点としては、「1.科研費とは?」の項目に、2014年度版の「2.科研費のルール」や「17.研究成果を発表したら?」の内容が統合されたということです。特に「研究成果発表時の表示」については、2014年度版には最も後ろにあった項目であったのですが、先頭に近い位置で登場することになりました。

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 項目の意味内容で考えると【はじめに】のグループではなく、【科研費で研究を行うとき】のグループに入れても良かったように思いますが、あえて【はじめに】に置いたということで、「研究成果を発表したときには、必ず科研費による成果であることを表示してほしい」という文部科学省日本学術振興会の強い意志が読み取れます。

 このほか、目次の位置で気づいた点としては、2014年度版では、16ページに位置していた「11.機関管理とは?」の項目が、2015年度版では「2.機関管理とは?」と【科研費で研究を行うとき】のグループの先頭に来たことでしょうか。

 

 次は、内容面で気づいたことです。

 まず、「1.科研費とは?」の項目に、2015年度版より「研究倫理教育の受講義務」についての説明が加えられました。

※研究倫理教育の受講
平成27年度から、科研費により研究を実施する研究代表者及び研究分担者は、研究機関が実施する研究倫理教育を受講することが必要です。

これは、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)によって、配分機関に対して、競争的資金等により行われる研究活動に参画する全ての研究者に研究倫理教育に関するプログラムを履修させ、研究倫理教育の受講を確実に確認することが義務づけられたことによるものです。

 

 また、科研費により得られた論文等の成果を誰もが利用できるようにする「オープンアクセス化」を進めようとする記載が登場しています。

科研費論文のオープンアクセス化
・誰でもWebを通じて無料で自由に論文にアクセスできるように、科研費の助成を受けて執筆した論文のオープンアクセス化を進めましょう。

このことについては、文部科学省に置かれた科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会において、平成24年7月に「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」が取りまとめられており、その中で「科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応」に言及されています。

3.科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応

a. オープンアクセス化の必要性

  • 学術研究の成果は、人類共通の知的資産として共有されることが望ましく、特に公的助成を受けた研究成果については広く利活用されるべきである。そのため、ジャーナルの高額な購読料や著作権ポリシーにより、閲覧が難しくなる状況は好ましくないとして、研究成果のオープンアクセス化を進めるべきという考えが世界的な流れとなっており、第4期科学技術基本計画でも推進すべきとされている
b. オープンアクセス化の方法
  • 研究成果のオープンアクセス化には、「オープンアクセスを前提としたジャーナルに論文を発表する方法」及び「研究者が発表したジャーナルの許諾を得て自らインターネット上で論文を公表する方法」という大きく分けて二つの方法がある。


(オープンアクセスジャーナルにおける公表)
    オープンアクセスジャーナルでは、成果を発表する研究者側に掲載費用を負担しても投稿したいという動機が必要になる。ビジネスモデルの変更により、掲載する論文の質的及び量的確保が難しくなる事態も想定されるため、我が国のオープンアクセスジャーナルはまだ少ない。

 しかしながら、諸外国では、米国のPLoS One誌のように、有力なメガジャーナルも存在することから、科学研究費補助金研究成果公開促進費学術定期刊行物)において、オープンアクセスジャーナルの育成を積極的に支援すべきとした。

 また、競争的資金を受けている場合、投稿料等を当該資金から支出可能である旨を明確に示すことで、論文のオープンアクセスジャーナルへの投稿を避けることがないよう促す必要がある。なお、科研費では、ハンドブックにおいて、成果公開経費の使用が認められることが明記されている。

(インターネットによる公表)
    研究者自らがインターネットで公表する方法は、3つの観点による組み合わせになる。
 (1)公表する場所

  • 研究資金を支援した資源配分機関におけるウェブサイトにおける公表
  • 研究者の所属機関におけるウェブサイトにおける公表
  • 研究者個人の設置するウェブサイトにおける公表


 (2)公表する時期

  • 最初に成果を発表した時点
  • 最初に成果を発表した時点から出版者側の認める一定期間を経過した時点


 (3)公表する文書の内容

  • ジャーナルが登載を承認し公式に発表したもの(出版版)
  • 出版版に至る前の著者最終原稿等

    公表場所では、我が国では、所属機関の整備する「機関リポジトリ」をオープンアクセス化の受け皿として活用することが現実的な方策と考えられる。

 公表時期及び公表内容については、著作権を保有する学協会や出版社との交渉等により、ジャーナルの発表時期と近い時期、出版版に近い内容で公表できるように努めるとともに、研究者にはオープンアクセスへの積極的な対応を求めることが重要である。

c. その他の環境整備

  • 競争的資金を受けた研究の成果については、資源配分機関が支援と成果との関係を把握するため、オープンアクセスへの対応を含め、支援した研究の成果へアクセスできるかを研究者側に報告させるべき。科研費については、研究成果報告書における研究成果論文のWebアドレスの記載を強く奨励し、KAKENとリンクした形での流通を進めるべき。

 

 さらに、2015年度版の「4.直接経費は何に使えるのか?」において、共用設備の購入に関する説明が追加されています。複数科研費による共同利用設備の購入については、平成24年度から制度の導入がなされていますが、平成25年度から科研費以外でも文部科学省が所管する競争的資金制度で合算による共用設備の購入が可能な事業が拡大しています。

複数事業による研究費で共用設備を購入できることは、研究費の効率化と設備の有効活用が期待されるということで、文部科学省日本学術振興会でも推進していくということになったのでしょうか。

 

 その他、細かなところとしては、「補助金分」、「基金分」、「一部基金分」に分けられるという「科研費の種類」の項目が丸ごと削除されていたり、「1.科研費とは?」の項目から、科研費の「研究種目」一覧が同じく削除されていたり、「14.審査は?」の項目で、ピア・レビューの説明と審査の流れという図が加えられているといった変更がありました。

 さて、さらっと見ると書いた割には、長々とした記事になってしまいました。

個人的な感想ですが、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」が定められたので、今年度はそれを反映して研究不正や研究者倫理に関する記載が大幅に増えるのかなと予想していたのですが、そこまで大きな変化はありませんでした。

 けれども、「オープンアクセス化」や「共用設備の購入(合算使用)」など、新たな制度や政策を反映した運用も導入されており、科研費担当者は毎年新しいことを学び続けないといけないなと改めて思いました。